会長の独り言

ロコモコ

 今の時代では、日本でも珍しくなくなったハワイのロカール・フード「ロコモコ」ですが、この起源について詳しく語る人は少ないので、ハワイの成人学校で勉強したことから覚えたことを少しばかりお披露目しましょう。

時代は戦後の1949年に遡ります。と言っても、ここは日本ではなく、ハワイ島の日系人が多く暮らしていたHiloの町はずれ。雑草が生い茂った広場の中に掘立小屋のような小さなレストランがぽつんと一軒。フットボールの練習を終えて腹をすかせたHilo高校のジョージ・沖本君とか、高橋君がいつものように、ドアを開けるなり「ナンシーおばちゃん、少し違った物を食わしてくれない?サンドイッチはもう飽きたよ」。ぜいたくを言うもののお金があるわけでもない。ナンシーは亭主のリチャード・井上さんと顔を見合わせ「ふーん?」。あるものと言えば、ハンバーガ―用のハンバーグ・パテと日本人定番のおむすび。サンドイッチ用の卵くらい。考えるふりをしながらリチャードは棚にあった丼を取り出し、おむすびを一個、そこにハンバーグ・パテを置きグレービーをかけて「ハイ、どうぞ」。「なんだー、こりゃあ」。

 学校では“クレイジー”と渾名されていたジョージ君は、ところが一口食べて口癖のように「クレイジー!(めちゃウマ)」。同じHilo高校でスペイン語を勉強していたジョージ・高橋君がすかさず愛嬌でスペイン語に訳し「オー、Loco!」。

 ここまで読むともう想像がつきますよね。そうです。「Loco Moco」の誕生です。「Moco」は先の「Loco」とのリズム感がいいというので「Loco Moco」となりましたが、スペイン語が分かる人なら「ゲーッ」と感じますね。あえて日本語に訳すなら「黄色い鼻汁」。少し後になってから、目玉焼きが乗るようになりましたが、卵の黄身を箸で割ってドローっと出すと、言葉通りになるかも知れませんが、―――これ以上はやめておきましょう。私は好きです。ハワイ島のヒロに行った時には是非ともオリジナルのロコモコを食べてください。「Lincoln Grill」という店名でしたが60年代にこのお店は無くなりました。ヒロ市内に似ているお店はあります。ちなみにジョージ君たちのフットボールのチームの名前も「Lincoln Wreckers」。相手チームを“解体”してやろうという意気込みですかね。

 ハワイ島、日系人発祥のロコモコは今やハワイを代表する食べ物になってしまいました。日本でも食べられますし、ホノルルのどこのレストランでもメニューに載っていますが、私はファンシーなロコモコ(イラスト)よりもオリジナルに近いシンプルなのが好きです。食べ歩いた友人によるとオアフ島のカネオヘ側にあるKualoa Ranchのレストランで提供しているロコモコがベストだそうです。

 もう一つ、日本の古来の(?)味付けが残されているのは「Okazu-ya」さんです。元年者はともかく、日本からの官約移民がスタートした1885年以降は毎年、何万人もの日本人がサトウキビ畑の農民として入植してきました。一時期20万人を超える日本人がハワイに居住していましたが、日中は大汗をかきながらの仕事ですから、どうしても塩分が欲しくなります。結果的に、ハワイで根付いた日本食は「味の濃いもの」にならざるを得なかったのです。

 私がホノルルにやって来た1980年代にも日本食を提供するところは沢山ありましたが、2022年の現在、昔から続いているのはカイムキ高校の向かい側にある「セキヤ・レストラン」だけでしょうか。ここに行くと「日本食だけど、日本で食べる日本食とは違うハワイの日本食」に出会うことが出来ます。またローカルの日系人が多用する細井葬儀所近くのヌウアヌ通りにある「おかず屋」さんでもお煮しめとか、衣たっぷりの天ぷらなども食べられます。

 ハワイに来たての頃、ランチ・プレートを注文すると一枚の大皿に白いご飯、熱々の天ぷらの上にマグロの刺身が数切れ重ねられ、その横にアメリカン・マヨネーズに漬かったマカロニサラダが山のように盛られているのには驚きましたが、今は平気です。肉じゃがも味が濃いのでご飯が進みます。

 当時「日本から来た板前さんは、ハワイで数年も働くともう日本には帰れないよ」という話を聞かされました。ローカルの味に舌が慣れてくると、本来の日本の微妙な味付けが出来なくなって「日本ではもう通用しなくなる」という意味でした。今ではワイキキなどでは本来の日本食が食べられますが、せっかくハワイにいるのならば「ハワイでしか食べられない日本食」というのにチャレンジするのも一興だろうと思います。空港近くのカリヒ地区にある「エトルス・グリル」は私が行く“穴場”です。独特の「マグロのたたき」はあそこでしか食べられません。

                       木曜午餐会会長  新名 瑛 

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