私は75歳を過ぎた今でもMCSA（McKinley Community School for Adults、マッキンレー成人学校）に通い続けています。コロナ・パンデミック前までは、私の所属するクラスにはイタリア、カザフスタン、ウクライナ、コロンビアなど世界の多く国々から集まっていましたが、この２年ほどは私を含めた日本・韓国・中国のアジア人がほとんどになってしまいました。今のクラスでは最年長ですが、以前は90歳近い人もバスで通っていましたから、その人を目標に頑張っていました。学び舎は、アラモアナ・ショッピング・センター近くの山側にあるマッキンレー高校の敷地内にあります。6～7年も通っていますと、いつの間にかこの高校に愛着を感じる様になります。スペイン風の校舎は、私の卒業した西宮にある関西学院大学に非常によく似ているからかも知れません。
ハワイで最も古い歴史のあるこの公立高校は、1920年代から30年代にかけては日本からの移民の子供が多く通っていたせいもあって“東京ハイ（スクール）”とも呼ばれていました。ホノルル国際空港の名前にもなっているダニエル・イノウエ元連邦上院議員、日系人として初めてハワイ州知事となったジョージ・有吉さん、元ハワイ大学総長の松田富士夫さんなど数え上げればきりがないほどハワイの著名人を多く輩出している名門校です。
正式には「President William McKinley High School」と言います。1865年に英語学校として今のダウンタウンに設立されましたが、30年後には手狭になり1895年に「ホノルル・ハイスクール」として移転しますが、1907年にホノルル美術館あたりに再び移転した時に、1901年に亡くなった第25代アメリカ大統領を偲んで名前を今の「マッキンレー高校」にしました。それから100年以上の歴史がたった2021年3月にホノルル市議会で「元の名前に戻そう。そして銅像も撤去してしまえ」という提案が持ち上がりました。
ちょっと歴史を遡ります。マッキンレー大統領は1898年７月、ハワイ王国併合のための決議案に署名し、ハワイ王国の主権はアメリカ合衆国に移譲されました。翌1900年にはハワイ領土併合法が公布され、ハワイ領土政府が設立されました。その後ハワイ基本法と呼ばれる新法が布かれ、ハワイにもアメリカの諸法が適用されることとなった。
要するに、ハワイ王国転覆の主人公であり、その名前を由緒ある高校の名前として冠するのは相応しくない、ということのようです。マッキンレーの銅像では右手には署名した併合案の書類が握られていますが「そんなものは実在しない」と言われています。
アメリカでは2020年に黒人の男性が白人の警官に首を押さえつけられて死亡した事件をきっかけに人種差別への抗議運動が広がり、南部を中心に人種差別の象徴だとして南軍司令官のリー将軍の銅像が撤去されるなど南北戦争で奴隷制度を支持した人物の銅像や記念碑が倒されたり、撤去されたりしています。マッキンレー高校の名前変更、銅像撤去の動きもこれに連動したものだと思われますが、ジョージ・有吉さんをはじめ多くの卒業生がこの動きに異議を唱えて、今のところ運動はストップしています。
個人的には「マッキンレー」が好きです。大統領ではなく、伝統ある学校が好きです。名前を消して、銅像も撤去して、それで後世の人々は何も知らない、というのは歴史ではないと思います。良かった部分も、そして醜かった部分も含めて歴史を学ぶ姿勢が必要ではないかと思うのです。
マッキンレー高校は別名「Home of The Tigers」とも呼ばれマスコットは2022年の干支でもある「タイガー（虎）」です。そして阪神タイガースのトラマークは、何を隠そう、このマッキンレー高校のマスコットをもとにデザインされたものなのです。「えー、嘘！」という言葉が出てきそうですが、本当なのです。
阪神タイガーズファンの方ならば、是非とも一度、私の好きなこのマッキンレー高校を訪ねて頂きたいものです。 ちなみに、私も昔の阪神ファンで、ピッチャーは村山実、小山正明、そしてショートの吉田義男、サードの三宅秀史、歌手の島倉千代子と結婚した藤本克巳など往年の選手の名前しか出てきませんが。
木曜午餐会会長 新名 瑛
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