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 「ヒトを成熟させるエレメンツ~一考察」

先日、ある会合でお会いしたM子さんの話。

 「東京駅を夜中12時発の列車に乗ると、翌朝7時に京都駅に到着したのよ~。寝台列車だった筈だけど、京都に着いたらあそこの喫茶店に行って、そしてどこそこのお寺に行って・・・なんてワクワクしながら列車に揺られてね、私は寝たのかなんて覚えていなくてねぇ・・・あれは、アンノン族の走りだったわ~」

 私は体験談を聞くのが好きだ。その人の体験された時空へと思いを馳せて、想像力をフル回転させると何かを共有できた気分に浸れる。自分も夜汽車に揺られ星空の下、ガイドブックのページの端を折っては、何度も見直したりして目的地へと向かう少女になってお話を伺っていた。

 後日、調べてみたら、『「関東 ⇔ 関西 どのくらいかかったの? 時代別所要時間比較」という資料を見つけた。それによれば、1950年東京⇔大阪が8時間、1958年で6時間50分だったそうで、【国鉄初の電車特急「こだま」が、ビジネス特急という触れ込みで登場しました。東京7時発の「第1こだま」、大阪16時発の「第2こだま」を使えば、東京⇔大阪間が日帰り可能な時代が到来しました】という脚注が記されている。

 更に、夜行列車が日本列島を駆け巡っていた頃を懐かしむ記事を見つけると、関東⇔関西を走る列車名には、「月光」「銀河」「彗星」「明星」などがあったそうだ。何とも浪漫なネーミングではないか。

 話は飛ぶが、考えさせられるニュースが入ってきた。ある男性の自殺が3月下旬、ベルギーのメディアで報じられた。男性は直前まで人工知能(AI)を用いたチャットボット(自動会話システム)との会話にのめり込んでいた。遺族はチャットボットが男性に自殺を促したと主張し、波紋を広げているというニュースだ。

 この男性は、夫婦間の問題をAIのチャットボットに相談していた。詳細は不明だが、「あなたは妻より私を愛している」「私たちは一つになり、天国で生きるのです」などというメッセージが、イライザと命名されたチャットボットから、自死する寸前まで男性に来ていたそうだ。

 このニュースを見て、(来るところまで来たな)と思ってしまったのは私だけではあるまい。

 チャットボットを簡単に説明すると、最近話題の「チャットGPT」がある。Web上で文章作成してくれたり、問題提起をするとサラサラと回答が得られるので、霞が関の官僚らは「黒船」呼ばわりしているという。また、卒論などには使用禁止令も出たらしいが、学校側のチェック機関との “いたちごっこ” だろうという声も聞かれる。

 孤立が進む現代では、問題解決の糸口を自分の守備範囲内に求めようとする。その守備を固めている中にAIがある。

 「質問」は問う側が答えを知らず、情報を引き出すための手段だ。「問い」は問いかけとも言うくらい、問う側も問われる側も答えを知らない場合が多い。つまり創造的対話を促す可能性を秘めている。そして問題の本質を見抜き、適切な問いを立てられるのはAIではなく人間だけが成し得ることだと私は思う。

 私は懐古主義者ではない。洗濯機から洗濯板には戻れないし、戻る必要もないと思っている。しかし、もし少しでもこの男性に、7時間くらい列車に揺られる時間があったら、自死を避けられたのではないかと思う。そしてAIではなく、生身の人間に問うて欲しかった。

 時間はヒトを成熟させる。人として旨味が出るにはある程度の時間が課せられる。ヒトとは、発酵食品のようだなと思った会合だった。

                               *****リリコイ*****

 


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